3週間後。再び勝浦沖へ向かった。
前回のボウズは、座席が悪かったから。
船酔いが影響したから。
そう自分に言い聞かせていた。
だからこそ確かめたかった。
本当にそれが原因だったのかを。
釣り座は前から4番目。
前回の当たり釣座とほぼ同じ前寄りの座席。
そして——前日から耳鼻咽喉科にまで相談した船酔い対策。
今回はかなり本気で、今までより踏み込んだ対策をしてきた。
自分のせいではない。外部要因のせいだったんだ。
座席運とか、体調とか。
今日はそれらが全部揃っているはず。
釣れない理由が見当たらない・・・はず。
当日の状況
この日の天気は晴れ。前回同様、青空が広がっている。
潮は大潮。
上げ3分から満潮に向かう上げ潮。
水深は60~90m。
タイラバを落とすには申し分ない条件だ。
座席と海の状況。文句なく最高!
釣り座は前から4番目。
前回の「当たり釣り座」とほぼ同位置。
何より素直な潮流れと風。
ドテラ流しの船から真っすぐ前に仕掛けが払い出される。
タイラバが綺麗に流れている。
そう確信できるほど「これ以上無い」というほどの状況だった。
前回(5月8日)と比べれば、釣り座、潮、風——すべてが好転している。
「これは釣れる」
そう何度も心の中で呟いていた。
船酔い侍? そんな事もあったね
前日から耳鼻咽喉科に相談した船酔い対策。
その成果は顕著だった。
正午から18時の終了まで、一度として胸の奥に酸っぱいものがこみ上げることはなかった。
6時間、完全に酔わずに釣りができたのは、いつ以来だろう。
右舷の波立つ中でも揺れる船上でも、この日の侍は揺るがなかった。
「ついにこの日を迎えたでござる」
そう心の中で小さく喝采を上げた。いや、頭のなかではパレードが開催されていた。
これまで船酔い侍を苦しめてきた宿敵に勝利したのだ。
今日は勝ったと思った(ただし魚以外には)
この時の私は、本気でそう思っていた。
魚以外には勝っていたのだから。
前から4番目の好釣り座。
素直な潮流れ。
完璧な風。
そして——念願の船酔いゼロ。
「これ以上揃う条件があるか」本気でそう思っていた。
座席のせいじゃない。
船酔いのせいじゃない。
今日は全部揃った。
自分の中で、すべての言い訳が消える。
そして同時に、「今日は釣れる」という絶対的な確信が生まれた。
その確信が——どれほど脆いものだったのか。
数時間後に思い知ることになる。
魚からは何の返事もなかった
タイラバは綺麗に流れている
ポイントに到着し、タイラバを落とす。
ハンドル回転数を数え、狙ったタナに仕掛けを通す。
糸の角度、巻きスピード、シンカーの重さ——すべてが前回より洗練されている。
そう確信していた。
前から4番目の釣り座から、タイラバは綺麗に流れている。
視界に入る限り、仕掛けは完璧に払い出されている。
「これ以上ないほど」という表現は、この日のために存在するのではないか。そう思えるほどだ。
だが、アタリすらない
6時間。
その間、何度も何度もタイラバを落とした。何度も何度もハンドルを回した。
それなのに——アタリがない。
掛け損ないもない。突然の引きもない。
手に伝わるのは
「異常なし!」という仕掛けからの報告のみ。
すべてが揃っているのに。
ネクタイも片っ端から試した
この日は完全に酔わなかった。
6時間、一度として気分が悪くなることはなかった。
そのおかげでネクタイチェンジも頻繁に行うことができた。
カーリーの種類・色。
ストレートにも変えたし、スカートも入れてみた。
でも何も反応がない。
座席のせいでもない。
船酔いのせいでもない。
言い訳がひとつ、またひとつと消えていく。
もうやることがない
時間は粛々と流れていく。
持ってきたネクタイはフィネスからビッグまで、ほぼ全て試した。
先発したエースネクタイはもちろんのこと、あまり使ってこなかったネクタイまで。
だが、すべてが完全沈黙。
何も起きなかった。
普段使わないワームまで投入した。
「もうできることがない。。。」
そんな絶望に近い思いを感じた頃、船長からアナウンスが流れてこの日の釣りは終了となった。
最終的にこの日の釣果はゼロ。
アタリという反応さえ、一度も記録されることはなかった。
今回は船全体が釣れていた
前回との決定的な違い
もうひとつ、絶望を感じる原因があった。
視線を左右に向けてみる。
自分より前の釣り座。自分より後ろの釣り座。左隣。右隣。
前回(5月8日)は、前1~3番が当たり釣り座で、後方はほぼ沈黙だった。
だが今回は違う。
ほぼ全席で魚が上がる
周りの竿が次々と曲がる。
同じドテラ流しのコース。同じ潮。同じ水深。
「また上がった」
「いいサイズだな」
「こっちも来た」
そういった声が船の前から後ろまで、絶え間なく聞こえてくる。
船長と中乗りさんは忙しそうに船内を動き回る。
タモ入れ、針外し、オマツリ対応。
この日は本当に魚がよく釣れていた。
中には、この日一日で複数枚のマダイを手にした人もいた。
前回は、前方だけが「別世界」だった。
今回は、船全体が「当たり」の状態だ。
なのに——。
自分の竿はただの一度も曲がらなかった。
スランプを認めた日
前回は偶然だと思っていた
帰路の車の中で何度も何度も考えていた。
5月8日のボウズは一度きりのことだと思っていた。
座席が悪くて、船酔いが影響して、たまたま釣果が出なかっただけ。
そういう日もある。
釣りをしていれば、誰もが経験する。
ただの「運が悪い日」。
その程度に考えていた。
だが、2回続いた。
それに今回の条件は完璧に整っていた。
座席も良い。船酔いもない。潮も風も最高だ。
実際、同船者はよく釣れていた。
それなのに、自分にはアタリすらなかった。
もうこれは偶然やタイミングの問題ではない。
「問題は自分にある」
タックルなのか。仕掛けなのか。操作なのか。
それとも、もっと別の何かなのか。
「運が悪かった」という言葉が、自分の中から消えていく。
次回、原因を洗い出してみる
何が悪いのか。
可能性は複数ある。
仕掛けそのものに問題があるのか。
それとも、仕掛けの操作に問題があるのか。
もしくは、それらとは全く別の層に、問題が隠れているのか。
この時点では、その答えは分からなかった。
過去の釣行を振り返ってみることにした
2月から4月までの釣行では、それなりの釣果が出ていた。
渋い中でも船中唯一で50マダイをゲット。
ほかにも70オーバーのマダイもあげていた。
その時と今、何が違うのか。
過去の釣行記録を見返しながら原因を探していた。
すると、リビングから娘の見ているテレビの音が聞こえてきた。
「真実はいつもひとつ!」
自分も不調の原因である真実を突き止めるんだ。
少なくとも、この時の私は「原因が一つ」だと思っていたから。

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